2007年7月 知床の山旅(斜里岳&羅臼岳)
メンバー:タニシリーダー、二等兵、マタギ、キヨノ、介護士&泰さん、カネゴン[記]
【プロローグ】
それは4月の会報が出た頃から始まった。「羅臼岳、行く?」「チケット、取った?」「一番安いチケッ
トは何?」「ついでに斜里岳に行かない?」「無人小屋じゃ、ガスを売っている店、探さなきゃ」「面倒だな
ぁ、民宿に泊まろうよ」「当然レンタカーだよね」 『ところでさぁ、タニシさんに参加表明、した?』
そう、各自、行く気は満々で、羅臼岳以外にも行こうか!と意欲的なのは結構ですが、当のリーダーに
参加表明をしていない。
何故か私のところに情報が集まってきた。皆さん、私が参加しない訳がないと思
われたようだ。交錯するメールを整理しているうちに、いつの間にか知床山行の事務局長に収まってしま
った。
そして事件は起きた。出発1ヶ月前、泰子さんがエアロビで着地に失敗し、左足首を骨折したのだ。自
宅にお見舞いに行くと、まるで絵に描いたような石膏ギブスをはめ、ソファーで「動けない。おとうさん、
あれとって。これとって」と指図している。こまごまと働く絵師。この日から“絵師”は“介護士”に名
を改めた。あぁ、それにしても知床はアウトね、と泰子さんに問うと「いや!あまりにも悔しい。山は諦
めても知床には行くもん!」と、松葉杖参加となった。
【7月13日】
ワッカ原生花園〜小清水原生花園
7:00羽田空港到着。フライトは7:50なので余裕の到着だ。が、3連休は明日からと言うのに、空港
は人人人の波。こんなに混んでいる羽田空港は初めて。チェックイン、手荷物預け、手荷物チェックを済
ますと、既に搭乗ゲートは開いている。一度も腰をおろす暇もないまま、飛行機に乗り込んだ。
予定より20分遅れで女満別空港に到着。手荷物受取所でマタギ、キヨノと合流。ドアの向こうに一便
早く到着しているタニシの姿を確認。既にレンタカー手続きも完了している。そして、昨日から網走入り
している二等兵を網走駅でピックアップして、今日のメンバーが全員集合した。
今日は車を走らせ、知床の原生園を巡る。能取湖(のとろこ)を過ぎると、オホーツク海が見えてきた。
私にとっては初見のオホーツク海。ここに旨い魚たちが私を待ってくれているのだと思うと、きゅーっと
お腹が鳴る。車窓には広大な大地。一面に緑の葉が茂る。どうやらじゃが芋のようだが、白や薄紫の花を
つけており、その違いが判らない。判らないことは、判るまで突き詰めずにはいられない性分の二等兵が
「あの家に聞いてみよう!」と一軒の農家に車を止めるように指示。呼び鈴を押すと、奥から家人が現れ
た。「あのじゃが芋の種類は何ですか?」「薄紫の花が男爵、白い花がコナフブキ。加工用の芋で、マッシ
ュポテトとして使います」に始まり、延々と立ち話。どうやら日本の農政問題にまで話は発展したようだ。
ただの通りすがりの旅人に、よくもまぁ、気軽に付き合ってくれました。
ようやく地元の農政問題意識調査も済み、再出発。そして第一の目的地、ワッカ原生花園に到着。車を
降りると、海風がとても冷たい。ここにはハマナス、スカシユリ等々の花が多く咲いている。各自、カメ
ラ小僧と化し、パシャパシャと始まった。
再び車に乗り込み、サロマ湖を目指す。途中、ラムサール条約の湿原を通ると、干潟に多くの鳥が休ん
でいる。あまりに遠い所にいるので置物のようだが、カメラのズームをフル活用すると、確かに鳥たちが
休憩しているのがよく判る。そして二番目の目的地、サロマ湖展望台に到着。明日の足慣らしと、階段を
えっちらおっちら登ると、サロマ湖を一望出来る場所に出た。サロマ湖の一部が切れて、オホーツクの水
が入り込んでいる個所までよく見える。おぉ、地図通りだ!と、妙なところに関心している私。
ついに本日最後の目的地、小清水原生花園に到着。ここにも花々がたくさん咲いている。そうこうして
いるうちに、2両編成の小さな電車がやってきた。原生花園駅がすぐそこで、かわいい電車が時折やって
くる。遠くには斜里岳。斜里岳はこの清里町では誇りの山であり、どこまでも広がる畑とマッチして、と
てもいい景色だ。明日はあの山に登るんだなぁと、シャッターを切った。
【7月14日】 斜里岳 1547m
5:00起床。車を走らせて清岳荘登山口へ向かう。
身支度を整え、5:45出発。今日は渡渉が多いとの情報だったが、本当にそれの繰り返し。水量は
大したことがないので靴を濡らす心配はないが、岩が滑りそうで怖い。
渡渉でないときは、川の脇の岩場を伝い歩きすることが多い。あぁ、私が嫌いな道だ。あぁヤダ、怖い!
おっと!滑るぅ!大げさに身体を揺らす度に、背中に付けた熊よけの鈴がチロリーン、チロリーンと鳴る。
この鈴は以前、岩手の山に行った時に買った鈴。南部鉄で、その音は風鈴のようだが、遠くまでよく響く
音だ。背中に括り付けている私はうるさくてしょうがない。が、これでヒグマが寄って来ないならば、
仕方がない。3mもある熊には、どうしても出会いたくない。
10以上の渡渉を繰り返したろうか、ようやく川とお別れし、山道に入った。
空は真っ青。新緑の葉が生い茂り、白樺の白が眩しい。なんというコントラストだ。歩き疲れて振り返る
と、いつの間にか標高を稼いだようで、麓の町、清里町が見えてきた。
熊見峠を過ぎる頃から松の背丈が低くなり、花が多く見えるようになってきた。が、目指す斜里岳山頂
はまだまだ遠い。
疲れたことを誤魔化すように、花の写真を撮りながら進む。
まだ雪が薄らと残っている個所もあり、雪解けを待ち切れずに出て来た芽が愛らしい。おぉ、まだ山桜も
咲いている。ここは春と初夏がいっぺんにやって来る場所のようだ。
見上げると、山頂付近に、今にも落ちそうな岩石がひとつ。「ボクはあの岩を落とすためならば、まだ歩
ける気がする」と、疲れが見え始めた二等兵が呟く。
10:10馬の背到着。
ここまでくれば山頂はすぐそこだ。が登り20人以上の、下りも20人以上の団体が狭い山頂への道を
交差しているのが見える。
山での団体客は暴力だよなぁ。数人に分けて歩けばいいのに・・・ま、いっか。ここは景色がひらけて十分
良いし、花もたくさん咲いている。
ならば早めの食事をしながら、団体が通り過ぎるのを待とう。
団体客が去り、11:00馬の背を出発。歩き始めるとすぐに、エゾカンゾウの群生に出会う。
あっちの角度だ、こっちのほうがいいと何枚も写真に収め、ようやく山頂へ。
到着は11:15。記念写真を撮り、周りの景色を堪能して下山開始。
上二股で新道と旧道に分かれる。
マタギ情報によると、「町役場のHPでは『登りは新道、下りは旧道
がお勧め』と書いてあった」というが、旧道は川の中を歩く道だ。決して水量は多くないが、その岩には
苔が付き、いかにも滑りそう。改めて地図を見ると「なめ滝状の旧道、爽やかな尾根道の新道は下りで」
とある。「なめ滝!勘弁してよぉ」とタニシと私が新道を戻ることに。残る3名は「何で往路と同じ道を
帰るんだ。つまらん!旧道だ!」と別れて下山することになった。
新道組みの二人は、快適に歩を進める。往路は雲で見えなかった景色も見え、ルンルンである。あんまり
気分が良かったので、残る3名が下っているであろう旧道の谷に向かって「キヨノォ!!!!!」と叫んだ。
二人とも、元々声がでかいのに、気分よく叫んだものだから、予想外にこだまが響き、急に恥ずかしさを
覚える。周りに登山客がいなくてよかった。
一方、そのころ旧道では、「きゃー、きゃー、マタギさん、先に言っちゃダメ!」と叫ぶキヨノ。マタギ
の手を借りながら、おっかなびっくり下っていた。「そっちじゃなくて、こっちの道がいいんじゃないの」
というマタギの忠告に「ボクはこっちがいいんだな!」と歩を進め、苔の上をすってんコロリン!尻を真
っ黒に染める二等兵。それぞれがぎゃーぎゃー騒ぎながらの下山であった。
登山口に近い二股に新道組みが到着し、水を一口飲んでいると、旧道組みが間もなく現れた。
なんとタイミングよく合流したものだ。そのままトントンと下山し、15:30、清岳荘に到着。無事、
ひとつ目の登山を終了した。
汗臭い体を一刻も早くさっぱりさせたいのに、「畑と斜里岳の写真が撮りたい」「海と山が一望出来ると
ころで車を止めろ」「オシンコシンの滝によっていく」と、あーー!もう、うるさい!
17:00宿到着。泰子さんが介護士と共に迎えてくれる。
「どうだった?」「いやぁ、山はよかった
よぉ。花も多くてさぁ、天気も最高!でもさ、船頭が多くって・・・」と、食堂から海に沈む夕日を眺め
ながらの語らい(?)は続いた。
【7月15日】 羅臼岳 1661m
4:30介護士と泰さんに見送られて宿を出発。
羅臼岳登山口であるホテル『地の涯』を目指す。
駐車場がいっぱいかもしれないという宿の主人情報により、予定より30分早く出発したのに、既に
もういっぱい。道路の脇に車を止めて身支度をする。
すぐそばには立派な角をもった鹿が草を食んでいる。鹿がいるということは、とりあえずここにはクマが
いないという証拠。
登山届を出して5:03木下小屋脇より登山開始。
いやぁ〜、それにしても人が多い。私の前は同行メンバーだが、その前にずぅーーーっと人人人。振り
返っても人人人。道端に気になる花があっても立ち止まることは許されない。
十年前に行った富士山のご来光以来の登山渋滞だ。これじゃクマが出てくる余地はない。
私のすぐ後ろは4人組。先頭の人だけが異常にザックが大きく、他3名は大したことない。どうやら
ガイドを雇って羅臼岳〜硫黄岳への縦走に行くようだ。
ガイドは鬚だらけの、絵に描いたような山男だが、声はとても優しい。硫黄岳で花を見たいタニシが
知ったら、思わずついていくに違いない。
オホーツク展望台も、560m岩峰も人がたくさんいて、休憩もままならない。
加えて今朝は調子がいいのか、二等兵が我々を振り返ることなく、どんどんと前に行ってしまい、ついに
姿が見えなくなった。
パラパラと人が減り始めたが、二等兵の姿はない。
我々を待つ気は全くないようだ。もういい、この辺で朝食にしよう!と登山道に邪魔にならないように、
広がり始めた景色を見ながら食事。
極楽平、仙人坂と歩きやすい道が延々と続き、何時間歩いても、一向に標高を稼いでいる様子はない。
確か今日の標高差は1200mのはず。
と、言うことは・・・一気に急坂を上がるということ?あぁ、考えるのは止めておこう。気持ちが
萎えるだけだ。
8:15雪渓に出た。ずいぶんと大きな雪渓だ。ここでアイゼンを履く。と用意をしていると、おや?
見覚えのある顔。二等兵がアイゼンを履いている。
ったく、ここでも我々を待っていた気配はない。
私は北岳で使ったばかりなのでさっさとつけてしまったが、久しぶりのキヨノは「え?あれ?なに?」
となんか違くない?それじゃ緩すぎて途中で取れちゃうって。と苦戦している。
ようやく身支度が済み出発。
さくさくと雪を蹴って歩く。最初は緩やかだった坂が、急坂に変わり、一気に標高を稼ぐ。
やがて再び緩やかになった頃に雪渓終了。振り返るとオホーツク海が真っ青だ。空と海の境目が
分からないくらい。
アイゼンを脱ぎ、足元を見ると、なんとも可憐な花が咲いている。
「タニシさん、これなに?」と問うと「おぉ、エゾコザクラじゃないか!おぉ、おぉ」とピント
合わせに必死だ。歩を進めると、シャクナゲなどの花がたくさん咲いている。
パシャパシャと写真を撮りながら進むと、9:15まもなく羅臼平に到着。広く開けた場所には、思い
の外、多くのテントが張ってある。
ここから見上げる羅臼岳には薄らと雲がかかり、まだ山頂は遠いことを教えてくれる。
途中まで一緒に来たのに「エゾコザクラのピントがあっていない」と引き返してしまった二等兵を
放り出し、一路、山頂を目指す。
はい松が過ぎると水場があり、ここから先はガレ場歩きとなり、いつの間にか岩場歩きに変わる。
よじ登るように前に進むたびに、気温が下がる気がする。辺りにはガスがたれ込め、さっきまですっきり
と見えていたテント場もオホーツク海も見えなくなった。
もうすぐ山頂か?という箇所で「ダメだ、ダメだ。先に下山させないと」という大声。どうやらここにも
40余名の団体客が押し寄せており、山頂を占拠しているらしい。漏れ聞こえてくるところによると、
山頂写真をひとりづつ撮っているとのこと。
どひゃーん。勘弁してよぉ。しかたなく岩陰で団体客が通り過ぎるのを待つ。あぁ、寒い。さすがの私も
かなり身体が冷えてきたぞ。
人が切れ始めたので少しづつ前に進む。もうやんなっちゃたなぁ〜と数メートル前を見ると、キヨノと
タニシがこちらを見ている。「そこ、山頂?」「そう、でもダメ。寒くって」とタニシが下山。
すれ違うように私が10:25山頂到着。すっごく狭い。よくまぁ、こんな狭い場所に40名も立った
もんだわ。ブルっ!さむっ!ダメだ、降りようと、1分足らずで山頂を後にした。
少し降りただけでも気温が暖かくなる。岩場を抜け、ガレ場を過ぎ、風のない日向まで降りたところで、
ゆっくりと昼食。見上げても羅臼山頂は真っ白で姿はない。
暫くすると山頂を往復した二等兵も合流。一足早く昼食を終えたタニシとマタギが、小さな花畑を
見つけた。食事後はここで撮影タイムを楽しむ。
12:00羅臼平から下山開始。
とんとんと下山するが、話に夢中になると二等兵の足が止まる。いいから歩きながら行きましょう!と
言っても「急ぐ理由はない」とマイペースを崩すことはない。いつの間にか前を行く3名の姿が見えなく
なった。
雪渓につき、アイゼンを付けて下り始めるが、急坂を下るのは結構怖い。慎重に一歩ずつ降りる私だが、
二等兵は走るように下ってしまった。
あとで聞いた話だが、一足先に雪渓を降りたキヨノは、アイゼンを付けた下りは初めてだったらしい。
コツがわからず、キャーキャー下っていたが、アイゼンを利かせることなく、すってん!転んだ。その
勢いで滑り落ちだしたキヨノを、身を呈して止めようとしたマタギ。悲しいかな、キヨノの勢いに惨敗。
その下にいたタニシは、キヨノとマタギのどちらを救おうか、それとも逃げようかと一瞬迷った後、
キヨノを止めた。
マタギは自力で止まったらしい。下り始めてすぐだったので、緩やかな坂での出来事だったらしいが、
これが急坂だったら危なかったわ。
もし足が上がっていてアイゼンが見えている状態で落ちていたら、凶器だものね、キヨノ
そのものが。
雪渓を過ぎてしまえば、あとはのんびりとした山道が続く。が、既に本日の歩行時間が8時間を超え、
昨日の疲れとも相まって、だんだんと歩く勢いがなくなっていく。
最後は惰性でなんとか下山。
15:45ホテル『地の涯』が見えた。
あぁ、疲れた・・・とトボトボ歩くと背後から「カネコさん!ビール、いる?」とキヨノの声。
「はーーーーーい!」と元気に返事をすると、間もなくビールと共にタニシが現れた。あぁ、幸せ・・・
下山と共にビールが飲めるなんてさ。聞けば先に到着した組とは30分の差があったらしい。
申し訳ないっす。待たせた上に、ビールで歓待されちゃ、こちとら王様待遇だわな。
一息入れた後に車を走らせ、宿に向かう。
宿についても車から降りるのに一苦労。疲労にビールが加わったおかげで、倦怠感が広がる。すぐに
介護士と泰さんが宿に到着し、風呂場に向かう。
が、階段が辛い。泰さん、その松葉杖、ちょっと貸してよ。ふと見ると、あのキヨノも階段を降りる
姿が少し怪しい。
夕食の後、部屋で一杯飲みながら今日の記録をメモするが、とにかく倦怠感が酷くて、身の置き所が
ない。じっと座っていること自体が辛くてしょうがない。
ごろりと横になっていると「きゃっははははは!まるでトド!」とキヨノ。ったく、失礼なやつだ。
【7月16日】 ウトロ〜羅臼
7:00 朝一のフライトで帰京する介護士と泰さんを見送り、ゆっくりと朝食をとる。
昨日までの疲労が取れ切れていない。上りはいいが、下りがきつい。横を歩くタニシもロボットのようだ。
目的の山は無事登ったし、今日は知床観光に徹する。
のんびりと宿を後にし、ウトロ漁港へ向かう。
ちょうど船からの荷降ろし最中だ。そばには丸々と肥えたカモメがおこぼれを狙っている。時折、
漁師さんが投げる魚の争奪戦だ。カラスも加わり、その争奪戦はかなり怖い。
荷降ろしを見物したあとは、観光船に乗って知床半島を海から眺める。小さめのクルーザーに乗り、知
床の崖や、そこを流れ落ちる滝、海鵜の様子を見物。海から眺める知床連山がきれいだ。
(下の写真:左からサシルイ岳、三ツ峰、羅臼岳)おや?昨日、ガスで何も見えなかった羅臼山頂付近、
今日はきれいに見えている。
「もう、悔しい」とキヨノ。気持ちはわかる。が、今日も連続して羅臼岳に
行く元気はない。
船を下り、ウトロ漁港婦人部が経営している食堂に入り、ホッケ定食にバフンウニ、ビールの昼食を味
わう。やはり食は山より海だわ。
車を走らせ、知床5湖に向かうが、本日はクマが現れて湖をひとつも巡ることは出来ない。
展望台で羅臼連峰を眺めた後、仕方がないので知床自然センターに車を止め、さっき船からみた乙女の
涙(滝)を上から見物することにする。
岬には強い風が吹いており、寒い。相変わらず知床連山はきれいだ。乙女の滝展望台から、めーいっぱい
に望遠を使って滝や海鵜を撮ったあとに引き上げる。
途中、ガイドに連れられた団体客にたくさんあった。おそらく知床5湖がダメなので、こちらで見学と
なったのだろう。
車に戻り本日の宿に向かう。知床峠からは北方領土がはっきりと見る。やっぱりあそこは日本だろう。
あそこが返還されたらウニやカニが安くなるかね?と、領土問題なのか、単に贅沢をしたいだけなのか、
という会話が続く。
知床峠を過ぎ、海沿いをしばらく走ると、本日の宿・本間に到着。
元漁師のおとうさんと、おしゃべり好きのおかあさんに迎えられる。荷を降ろした後、おかあさんの
勧めで、海沿いにある相泊温泉に向かう。
おかあさんの話の様子だと、歩いてでも行けそうな雰囲気が、道路標識をみると19kmとある。
田舎の「すぐ」は、山屋の「もう少し」くらい、あてにはならない。
到着した温泉は、海岸に湧いた温泉をコンクリートで囲って、青テントを被せたもの。少し熱めだが、
いいお湯だ。隣の男湯とはベニ板一枚の仕切り。
「カネコ、こっちくれば。こっちは広いよ」といいならが、にゅーっと湯船の下から足が出た。「えー、
でもこんな狭い場所、くぐれないよ」と答えると、聞き覚えのない声で「あぁ、大体アンタの姿が想像出
来たから、もう来んでいいよ」と返事。どうやら地元の漁師らしい。失礼な土地柄じゃ!
湯から上がり、近くの番屋に立ち寄る。海岸にある掘立小屋。コンブ漁を営む家族が夕食中。
漁師のとうちゃんは胡坐をかいてウイスキー入りのコップを箸で混ぜていたが、かあちゃんと子供が
接客に出てきた。買う気で寄った番屋で、ひとしきり羅臼昆布の話を聞いてみたが、どうもピンとこない。
「じゃ、どうも」と立ち去ろうとすると、「僕は買おうかな」とマタギがお買い上げ。
一家にとっては貴重な現金収入ですね。
豊かで洗練された生活ではないけれど、なにか暖かい雰囲気をもった家族で、忘れていた何かを思い
起こさせた。
宿に戻ると夕食。豪華な豪華な夕食。
大きなキンキの酒蒸し、大きなつぶ貝、毛ガニ、ホタテ、車エビ、タコの卵・・・むしゃむしゃと
かぶりつく。うっ!旨い!「つぶ貝はこうやって出すんだよぉ〜」と、やさしいおとうさんが食べ方を
教えてくれる。お腹がはちきれそうになるまで、むしゃむしゃと食べ続けた。
【7月17日】 羅臼湖
目覚めて窓の外を見ると、数隻の昆布漁船が見える。今日は解禁日だそうで、早朝から漁師さんは大忙
しだ。
本日は宿で長靴を借り、羅臼湖散策に出掛ける。知床峠手前の湖入口を探すが見つからない。通りかか
ったパトロール車を止めて、ようやく入口発見。長靴を履いて歩きだす。
背丈ほどのハイ松をかきわけると、すぐに一の沼。ちょっと斜面を下ると二の沼。三の沼を過ぎると
雪が少し残っている。
その横を過ぎると四の沼。雪解け直後の水はきれいで、水底の根っこがはっきりと見える。
五の沼を過ぎ、もうすぐ終点、羅臼湖だというところで、先頭を行くタニシが「あれ?湖の横の黒い
もの、なに?動いてない?クマ???」皆に緊張感が走る。
キヨノと私は身体が半分、復路に向いている。よく見るとただの岩。恐怖心が生んだ代物だった。
まっすぐと伸びる木道を歩き、目的地・羅臼湖到着。
ワタスゲが多く、のんびりと広々とした場所だ。写真を撮り、景色を楽しんだ後に引き上げる。
復路では、往路にパスした三の沼のドン詰まりまで行ってみる。振り返ると三の沼に写る逆さ羅臼岳。
薄く雲を従えて、優美な姿を映している。順に写真を撮った後に引き上げ。
車に戻り、宿に長靴を返しながら、宿でおいしい昼食をたんまりといただく。
大きなホッケと羅臼昆布をお土産に購入し、おとうさんとおかあさんに見送られて、宿を出発。飛行機
までの時間があったので、往路とは違う道を行き、北海道の広さを実感しながらドライブ。走り抜けること
3時間余り、女満別に戻ってきた。
一便早く帰京するタニシさんに、女満別湖畔の温泉で降ろしてもらい、ここで解散。ゆっくりとお湯に
浸かり、五日間の旅の思い出を振り返りながら飛行機の時間を待つ。
温泉から飛行場に向かうタクシーの中で、運転手が語った。
「僕は知床の測量を手伝ったことがあるのですが、3度、熊に会っています。一度は25m先にクマがいて、
もうダメだと思いました。必死に下りを駆け降りると、熊が追いかけて来たのですが、前足が短く、頭が重い
熊は下りが苦手。途中で転んで、転げ落ちて行きました。だから僕は知床の山は嫌いです」と。
あぁ、よかった。無事、帰れるから。
長い山旅は天候に恵まれ、思い通りの旅を堪能出来ました。わがまま、気ままなメンバーに振り回された
タニシさん、本当にご苦労さまでした。レントゲンを撮るかの如く、息を止めて撮った写真の数々、満足
出来るものはありましたか?
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斜里岳山頂にて
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三の沼に写る逆さ羅臼岳
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2007年山行計画に戻る