2009年6月26日〜28日 北岳


メンバー  2泊3日組:Altivelis、カネゴン(記)
      1泊2日組:Todo & Hana、スミ博士

 = 前章 =
 24日 二等兵からのメールが届く。

 カネゴンさま
 こんにちは。悩んだ末のメールです。
 先週土曜日、医者に行き、光線過敏性湿疹と診断されました。薬などもらって回復に励んでいます。
 先週初め頃から、腕に発疹があり、自然に治るかと期待して居りました。が、週末にはますます進み、 こりゃあ困った、と医者に行ったのです。
 短パン&ソックスを身に着けたときにも日光に当たる、膝からソックスまでの下肢、半袖シャツを着た  ときの腕の広い範囲に湿疹が出たのです。(結構激しい)

 医者からは、日差しの下での短パン半袖でのテニスなどもってのほか、外出時は長袖&手袋を言い渡され、 それ以降は外出も最低限に抑えています。いろいろ考えましたが、今回の山行は断念すべきかと思いつつあ ります。
 @ 完全に治癒しないまま、長引いたり、また慢性化したりすることは避けたい。
 A 山行による疲労は、一般的に言って、治癒を遅らせる方向に働くであろう。
 B 3日間、皮膚の汗を落とせずにいることは、湿疹の回復を妨げる可能性がある。

 長引いて、将来、屋外での活動が制限されることは極めて困ることなので、ここ数日は完治まで自重すべき と、思い至った次第です。

 Altivelisさんには、小屋の予約のこともあり、今日中に連絡をしようと思っております。
 明日の診察のあとに決めようかと思ったりもするのですが、あまり間近だとまたご迷惑かとも考え。 何卒、ご賢察のほど、よろしくお願い致します。

 今回の北岳、Todoリーダーの計画では27〜28日でしたが、「きれいになった白根御池小屋に泊ま ろう!」という案が浮上し、Altivelis、二等兵、カネゴンがこれに手を上げていました。
 ところが出発2日前、二等兵から前述のメールが届いたのです。彼にとって「日に当たる場所に出ら れない」とは、致命的な打撃であるはず。文章から十二分に読みとれます。
 それにしても文末の「何卒、ご賢察のほど」って・・・
 私が何を賢く考える必要があるわけ?あなたが十分に良く考えているでしょ。
 っと言う訳で、先発隊はAltivelisとカネゴンの2名と相成った。

 6月25日新宿駅。
 7:30発あずさ3号に乗車。偶然、隣席となったおばさまに「山に行かれるの?どちらに?」声を かけられる。見ればおばさまの足元も山靴。同業者(?)のよしみで声をかけられたのだろう。
 「北岳に。あなたはどちらに?」
 「私はみくりヶ池に写真を撮りに行くの」
 と会話が始まった。

 このおばさま、話は面白い。
 「私ね、45歳を過ぎて子供に手がかからなくなってから、山に行き始めたの。色々なところに 行ったわ。私の山の先生がガイドをした縁で、田中澄江さんとも一緒に歩いたこともあるわ。
 私の山の先生は、とっても頼りがいのある方でね。ある日、山で丸太橋を渡っている人がいたのだ けど、橋の上でザックの紐が切れてしまってバランスが崩れ、川に落ちてしまった人がいたのね。
 その時先生は背負っていたザックを投げ捨て、上着を脱ぎ、川に飛び込んで、落ちたその人を助け たの。勇敢よねぇ〜。やはり、ガイドは軍隊上がりに限るわ」
 「ぐ、軍隊?!失礼ですがお幾つですか?」
 「あらやだ、78よ」

 まぁ!そうは見えません!姿形もそうですが、話に言い淀むこともなく、同じ話を繰り返すこともない。 我々のほうがもっと多く「ほら、あれあれ、あれよ!なんだっけ」と口にする回数が断然多い。
 やばい、78歳に負けている。それにしても今時、軍隊上がりのガイドを見つけるには、どこを 探せばいいんだ???と思案していると、おばさま
 「でもね、私の山の先生はもう無理よ、95歳だから」
はい、その方に頼むつもりはありません。
 そんなことを話していると、あっという間に甲府駅に到着。降り際には名乗り合い、再会すること を約束し、下車。その後、甲府駅でAltivelisとバス停で合流。

 9:30発広河原行きの直通バスは満席。
 Altivelisを含む3名は芦安駐車場まで席を用意されないほどの込み具合。

 乗車から約2時間。車窓から北岳が見え始めると、途中数か所のバス停で下車する人がいる。どう やら沢登りの人らしい。
 11:30広河原到着。
 身支度をし、昼食を取った後、ようやく本題の北岳登山を開始した。

= 1日目 広河原〜大樺沢〜白根御池小屋 =
 12:20広河原を出発。
 今日は大樺沢を行き、途中で右に曲がって御池小屋までの約4時間弱の歩行予定。
 天気はいいし、時間はたっぷりある。何物にも束縛されずに、呑気に歩きだす。視界が開け、北岳が 見える。二人ともすっかりご機嫌である。川を何度も渡る。雪解け水が勢いよく流れ、涼しげな風が 心地よい。

 水を見ると触らずにいられない性分らしいAltivelisは、川を見る度に手や顔を洗っている。
 「アライグマか?あなたは?」
 とつぶやく。

 やがていくつもの花々を見かけるが、どうもAltivelisもあまり花には詳しいというほどではない らしく、その数倍下を行くカネゴンと一緒では、
 「この白い花・・・今度は黄色」
 と、花の話題ではちっとも盛り上がらない。
 それでも目につく花は満足のいくまでバシバシ撮り、一人悦に浸る。

 それにしてもAltivelisのシャッターは早過ぎる。ちゃんと被写体を見ているのか?と疑問に思い、 撮っている後ろに廻って液晶を覗いた。
 すると、カメラの電源が入り、被写体が液晶に写ったとたんにシャッターを切っている。
 「ねぇ、ピント合わせしないの?」
 「このカメラは安物だから、そんな高尚な機能はないの」
 「そんなバカな!ちょっとカメラを構えてみて。そう、そこでシャッターを半押しすると、画面上 に四角い図が出てくるでしょ。そう、これでピントが合うわけよ」
 「へぇ〜、そうなんだ。どうせ教えてくれるなら、もっと前に教えて欲しかったなぁ」
 そ、そんなご無体な。まさかAltivelisともあろうお方が、ピント合わせ機能をご存じないとは、夢 にも思わなんだ。

 川を越えると緑の美しい道が続く。日差しと緑が何ともいえず美しい世界を彩る。
 相変わらず花も良く見られ、片っ端から写真を撮りながら、呑気に進む。
 やがて雪渓が見えてきた。八本歯のコルだろう。人が歩いている姿が小さく見える。今年も雪は多そう だ。

 「今の時間から八本歯に行く人もいるんだねぇ」
 「私たちは雪の上を歩く気なんか、ないもんねぇ〜」
 などと話していたが、前方を行く人たちは、全員、雪の上を歩き始めた。え?これ、大樺沢の道な訳? ありゃ、ホントに今年は雪が多いのねぇ。

 ストックを出し、慎重に足を進める。直前に団体さんが上がって行ったので、踏み跡がしっかりして いるため、その跡を忠実に辿る。

 そろそろ二叉分岐があるはずで、右に曲がるはずだが、これまで見てきたような道標が見当たらない。
 肩の小屋への印はあるが、今日はそこに行く気はない。辺りを見回し、何度か歩いた時の記憶を辿るが、 毎度、この道を歩くときは肩の小屋に向かうので、右への道をあまり気にしたことがない。

 ウロウロしていると、直前を歩いていた20名の団体さんガイドが
 「ここにあったはずのトイレがなくなっている。雪で流されたのかも知れない。それなら道標が 流されても不思議はない。多分、御池への道はここだ」
 と話してくれた。

 素直に言うことを信じ、右に曲がる。道が分かってしまうとまた呑気モードに逆戻り。目に着いた花や 景色をバシバシ撮りまくり、15:30白根御池小屋にようやく到着。
 チェックインを済ませ、生ビール片手に小屋前広場に出る。夕方になっても来ただけの姿が隠れること もなく、辺りを満喫しながら至福の一杯に喉を潤す。
 こうやって17:00の夕食まで過ごし、夕食後は2人の貸し切りとなった8人部屋にゴロゴロし、 持参のワインやブランデーをなめつつ、『岳』というマンガを読む。

 このマンガ、ご存知ですか?
 山岳救助がテーマの漫画なのですが、まぁ、テーマがテーマなので、遭難する人が続出なんです ね。危ないですね、山は。慎重に行きましょ、と肝に銘じ、20:20消灯。あっという間に熟睡態勢 に入った。
 飯能のTodo山荘を目指していたスミ博士が、まさかTodo山荘目前で遭難するとは露知らず・・・


= 2日目 白根御池小屋〜草すべり〜北岳山頂〜肩の小屋 =

 4:00小屋の明かりがつく。10名くらいの団体がもう出発している。
 5:00起床。もう小屋内の人口は激減している。
 5:40小屋前広場に出て、お湯を沸かして朝食。荷造りを済ませ、水とお湯をたっぷり小屋に分けて もらい6:45出発。我々がラストの出発のようだ。

 取り付きの草すべりは辛いが、急ぐ理由は全くないので、気が向くままの写真が撮り放題!ピント合わせ を覚えたAltivelisは「百発百中!」と熱心にシャッターを切っている。
 天気は最高!梅雨の真っ只中というのに、空には雲ひとつない。急な登りが一段落した場所で一息 入れる。本当に景色が良い。
 そろそろTodo本隊が広河原に到着する頃だと噂をしつつ出発。

 色々な花が咲いていたが、桜まであった。
 山には春と夏がいっぺんに来るのは知っていたが、ここまでとは・・・

 北岳とAltivelis。
 とても美しい風景に
 「もう一回しゃがんで」
 と頼むと、
 「いいけど、ここに何かの糞があるんだよね」  とAltivelis。
 でも云わなけりゃ、花でも観察しているように見えるでしょ。


 暫くすると単独行の男性に追い抜かれた。
 今朝、一番の乗り合いタクシーで上がってきて、日帰りで帰るとのこと。
 前日から入っている我々を、あっさり抜き去った。

 ようやく登り切り、小太郎山との分岐に到着。
 一気に視界が開ける。

 目の前に仙丈岳。
 小太郎尾根の向こうには甲斐駒ヶ岳。
 遠く中央アルプスの山並みまで見える。この景色を見ると、「来て良かった」という思いが、心の底から湧きあがる。

 見下ろすと遠くに小さく車が見える。
 広河原だろう。
 Todo本隊は、今頃どこを歩いているのやら・・・
 なんかさぁ、今日はTodo&Hanaに会えない気がするんだよねぇなどと、話ながら10:10肩の小屋着。
 コーヒータイムを取り、荷物を小屋に置かせてもらって、山頂を目指す。
 途中に僅かながら雪が残り、足元が悪い。
 11:30シャリばて寸前で、旧山頂の団子看板の前で昼食。雪を被った間ノ岳が美しい。ここでのんびり し過ぎると、キタダケソウを見に行くのが億劫になりそうなので、早々に出発。


 山頂から下ること20分、八本歯コルの分岐に到着。
 ここを少し降りるだけでキタダケソウに会える。
 今回のメインイベント・キタダケソウはこの私でも見分けがつく。
 ほら、すぐに見つかった!

 バシバシと写真を撮る。ここでもカネコ写真教室を開催。

 Altivelisが構えるカメラを一緒に覗きつつ、おせっかいを焼く。
 「花にピントを合わせてから少しレンズをずらしてシャッターを切る!あら不思議!オオスミ写真の 出来上がり!今度は山にピントを合わせてから手前の花を一緒に写し込む。
 ね!同じ場所でも2種類の写真が撮れるわけよ」

 十分写真を撮った後は、13:10分岐に戻って昼寝を決め込む。ひと眠りして再び山頂に戻り、景色を ぼーっと眺める。あぁ幸せだ。

 山頂を渡る風に吹かれながら、飽きることなく周囲を見廻す。
 日頃のイライラが一瞬で吹っ飛ぶ。

 そうやって1時間を過ごした14:30、Altivelisが
 「Todo本隊を途中まで迎えにいこうかなぁ」
 と言いだした。
 そ、じゃ肩の小屋まで戻りますか?と口にしたとたん、見覚えのある人物が登場。
 スミ博士である。
 あれ?ひとり?あとの二人は?どうやら歩きだしてまもなく、Hanaさんの体調がおかしくなり、御池小屋に 止まることにしたという。

 スミ博士もお疲れのようで、
 「そこをちょっと下ると、キタダケソウがあるよ。行っといで、ここで待っているから」  というと、
 「ホント?近い?」
 とスミ博士らしからぬ発言。
 「じゃ、これでも食べてて」
 と、まったく原型をとどめないドーナツを渡された。そうやって約1時間、スミ博士がキタダケソウを 撮って来るのを山頂で待ち、16:00一緒に肩の小屋に戻った。


 小屋前のベンチで夕食前の宴会。
 本隊の苦難な道中を聞き、我々の天国のような道中を自慢し、満足度をさらにUPさせた。


 更に世間から疎くなっている我々は
 「ねぇ、マイケルジャクソンが死んだって,ホント?」
 と旬なニュースをスミ博士から聞き出したりもしていた。
 夕食後、御池小屋のTodoリーダーと電話で話し、明日は御池小屋で合流して一緒に帰ることを確認し、 19:30には早々に就寝した。

= 3日目 肩の小屋〜草すべり〜白根御池小屋〜広河原 =

 4:00同部屋の元気なグループに起こされる。
 もう少し、静かに行動できないもんですか?と喉まで出かかった言葉を飲む。我先にと殺到している 朝食の雑踏を避けるため、外でお湯を沸かし、コーヒータイム。

 朝食後、身支度を済ませ、6:30肩の小屋を出発。スミ博士の参加で、急に花のレベルが上がる。行き に見逃していたたくさんの花を見、写真に収めつつ歩く。
 まだまだこんなに色々な花が咲いていたんだね。仙丈、甲斐駒に別れを告げ小太郎分岐を下る。

 昨日は見えなかった八ヶ岳連峰がよく見え、これで3日間共好天に恵まれたことになった。梅雨の最中 とは思えない幸運!


 7:30草すべりと右叉分岐でひとり坐っている人がいる。「カネコぉ」と手を振るはHanaさんじゃあ りませんか!体調、良くなったようで何よりですわ。
 ここから4人で下り、8:25白根御池小屋でTodoさんと合流。ついさっきまで部屋でゴロゴロして いたらしい。これもまた贅沢。
 豊富な水を汲み、ここでもコーヒータイム。優雅だわぁ。さぁて、下りますか!とようやく本来にメンバー が揃い、一気に広河原を目指す。
 10:50広河原到着。
 最後まで雨の心配もなく過ごせてしまいました。
 11:40広河原発のバスで芦安駐車場に向かい、温泉、昼食後、帰路へ。

 高速道路を走行中に雨が降り出した。  へっへーん。もう関係ないもんねぇ〜。
 梅雨らしく降ってくださいな。
 水不足が心配ですからねぇ〜。

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